【前半】どこでもできる仕事で、どこでもできる暮らしを実現/2月17日開催「出張リトウ部」イベントレポート②
「島の高校生と考える離島の2拠点生活・ロングステイの可能性〜石垣島編〜」二回目のレポートは、NPO法人離島経済新聞社とBUKATSUDOリトウ部のクロストークの様子をお届け。
クロストーク前半では、離島経済新聞社の紹介と、「離島での二拠点生活って具体的にどんな感じ?」という話題を話しました。
話し手は、離島経済新聞社からは、編集長の鯨本あつこ(いさもと・あつこ)さん、理事の勝眞一郎(かつ・しんいちろう)さん。リトウ部からは、部長の鈴木と副部長の庄司が参加しました。
離島経済新聞社とは
鯨本さん
離島経済新聞の編集長、鯨本と申します。今日は、私と勝の2人でお話をさせていただきます。
私は2010年頃、仲間内で新しいメディアをつくろうという話をしていた頃、広島県の大崎上島を訪れることがあり、そこで「島ってすごく魅力的な場所だ」と思ったことをきっかけに『離島経済新聞』というウェブサイト(現在の『ritokei(リトケイ)』)をつくりました。それから1年経ったころ、皆さんの手元にある『季刊リトケイ』という紙媒体も作りました。紙の新聞は、春、夏、秋、冬の4回発行しています。皆さんの手元にあるのが25号ですね。
リトケイでは、離島地域の暮らしや、仕事、教育といった島の経済の元になっているものを、島で生きている人の話をベースに、あまり堅苦しくなく、誰が見ても分かるような情報としてつくっています。
立ち上げたばかりの2010年から2013年頃までは、私を含め、スタッフは本業の傍で活動するような形で、リトウ部さんの部活に近い形で続けていましたが、2014年からNPO法人化し、媒体の情報発信と一緒に並行して、離島地域の島づくりのお手伝いをしております。
その一つが石垣島の仕事。石垣市の方から仕事の相談をいただいて、最初に仕事をしたのが「石垣島 Creative Flag」というプロジェクトになります。
石垣島 Creative Flag Webサイト
鯨本さん
皆さんの手元にある、『(季刊)リトケイ』で一番最初のページをめくってもらうと、日本の有人離島人が全島が載っております。
人口なども掲載しているので、見ていただくと何となく島の規模感がわかります。この中で本土と橋がかからない島で、一番人口が多い自治体で5〜6万人台ぐらいなんです。1島あたりの人口が多いのは奄美大島で6万人台。ちょっと前まで、佐渡が一番多くて7万人ぐらいいたんですけど、佐渡は「年間に1000人減っている」と聞くほど人口が減っていたため、現在は5万人台になってます。その一方、石垣島は微増を続けていて、4万人台だった人口がもうすぐ5万人に届くかもしれないという島です。
そんな勢いのある石垣島は、移住で来られた方だとか。元々沖縄の本島の方から開拓移民として入った方など、色々な人がやってくる島なんです。
常にさまざまな人が交流しているため、「今どんな人が石垣島に住んでいるんだろう?」という状況は、地元の方でもなかなか分からない。
でもどうやら、デザイナー、イラストレーター、写真撮れる人などのクリエイターがいっぱいいるらしいということを、市役所の担当者が気づいて、そういう人たちを集めてみよう!という趣旨で、2013年秋に「石垣島Creative Flag」がスタートしました。
「石垣島Creative Flag」を立ち上げ、石垣島にゆかりのあるクリエイターを募集したところ、2年間で50組近くの方々が集まりました。
そして集まったクリエイターの方々を対象に、各自の仕事をPRしたり、東京で活躍しているクリエイターを石垣島に招いて勉強会を行なったり、という活動を続けてきました。
「石垣島Creative Flag」は立ち上げから3年目に一般社団法人化して、今も登録されているクリエイターさんたちに、いろいろなお仕事をしていただいています。
今、皆さんのお手元にある『Chura★I(ちゅらあい)』は、石垣島の高校生がつくったフリーペーパーですが、こうした紙面のデザインが必要な時にも、「石垣島 Creative Flag」の登録クリエイターさんに、仕事をお願いしています。
勝さん
離島経済新聞社の理事をやっております、勝と申します。出身は奄美大島です。よろしくお願いします。
いろいろやっているので、全部言うと面倒くさいことに(笑)。島関係でいうと、奄美大島で「伝泊」という一棟貸しの古民家の宿を運営する会社をやっている、奄美イノベーション株式会社という会社の執行役員をやっています。生活スタイルとして、月の二週間程度は神奈川県の藤沢に住んでいて、残りは奄美大島に住んでいます。で、明日から奄美大島です。
一同
おお~っ!
勝さん
おお~って(笑)。他にも奄美では、奄美市の仕事やあまみ大島観光物産連盟の仕事をやっています。全国レベルでは、総務省の地域情報化アドバイザーとして、昨年度は五島列島に行って、島の皆さんと地域メディアの立ち上げをやっていました。来年度からは、五島からいっぱい情報が発信されてくると思います。
大学の教員もやっていて、サイバー大学というソフトバンクが12年前に立ち上げた大学で、プロジェクトマネージメントを学生たちに教えています。
どこでもできる仕事で、ここでしかできない暮らしを
リトウ部鈴木
ここからは、お二人から二拠点ロングステイについてもいろいろお話を伺えればと思います。
鯨本さん
皆さんのお手元にある『季刊リトケイ』には、「仕事はネットで暮らしは島で。島の新しい働き方、在島ワーク」という名前をつけました。
この号をつくる背景には、最近は島で自由な働き方、暮らし方をしている人たちが、増えているな、という実感があり、それでは特集をつくって具体的に紹介してみようと思い、「テレワーク」「クラウドソーシングワーク」「リモートワーク」といった働き方をしている方々を特集しました。
二拠点や複数拠点でお仕事できる方は、基本的には「場所を選ばないお仕事」をされています。
この特集の冒頭は、私と勝さんの対談から始まるのですが、勝さんは「どういった仕事だったら島でも働けるのか」「都会でも働きつつ、同じ仕事を島に行ってもできるのか」ということを言っています。
もしかするとインターネットを使う仕事じゃなくても、二拠点生活できる仕事もあるのかなと思います。
勝さん
主なマーケットが東京にある芸術系の方たちは、島で絵や鉄細工、ステンドグラス等の作品を作って、東京で展示会や販売会を開いて、1年分稼いで帰ってきて、島でまた活動するというスタイルがあります。
奄美市はいち早くフリーランス支援を行っていて、「フリーランスが最も働きやすい島化計画」というオシャレな奄美市の政策を打ち出しています。この政策のキーワードが、「どこにいてもできる仕事、ここでしかできない暮らし」。
重要なのは暮らし方の改革。暮らしの場所は奄美がいい人もいるし、伊江島がいい人もいるし、石垣島がいい人もいる。そのなかで、まずは、「どこにいてもできる仕事ってどんなこと?」と考えたときに、「インターネットで納品できる仕事だと、わりとどこでもできるよね」というのが一例ですね。
鯨本さん
そうですね。この特集に出てくる人たちのお仕事は、デザイナーさん、フリーランスのライターさん、エンジニアさん、アート関係の方が多いですね。他にも、英会話教師がいらっしゃいますが、最近だとオンライン英会話がありますしね。
そもそも、勝さんもサイバー大学の教授をしながら二拠点をしているので、私たちが勝さんをつかまえるときも「勝さん、今日は藤沢と奄美、どちらにいるんですか?」みたいな感じになります。
『季刊リトケイ』に掲載している英語の先生も、福江島という、五島列島でも一番大きい島の中で英語の先生をしているそうで、仕事場はワゴンの「ハイエース」。改造したハイエースの中でWi-Fiスポットや電波のいいところを探しながら仕事をしているとおっしゃってました。面白いですよね。
リトウ部庄司
島のなかで、さらに自由に回遊しながら!
鯨本さん
電波を探す意味での回遊ですね(笑)。たぶん島にいて一番問題なのは、電波問題。今、二拠点生活されている方のほとんどが、インターネットが必要な方だと思うんですよね。インターネットが必要ってことは、一応、電波は気にしたほうがいいですよね。私がスマホをもってあちこちをウロウロしはじめたのは、2010年ぐらいから。当時はまだ「電波が入らない島」もいっぱいありましたし、「このキャリアの電波じゃないと入らない」みたいな島も多くありましたが、最近は少し改善されてきています。
実は、屋久島でもまだADSL回線なんですが、ADSLでもクリエイティブな仕事をしている方はいますね。その方、かっこいいんですよ。屋久島はときどき停電するんです。電気は使えない、イコール、何もできないじゃないですか。でも、その方は日頃から電気自動車を使っているので、停電になったときは電気自動車から電気を取って、仕事を続けていらっしゃる。
リトウ部庄司
なんか、生きる力みたいなのがつきそうですね!
鯨本さん
そうなんですよ!(笑)
島で行われる仕事環境整備
勝さん
奄美市で行ったのは、私は行政の立場からフリーランスの人たちに、「まず、どういうことが必要?」というのを聞いて回りました。そうすると、一つ目がアプリの最新機能だけ知りたい。都会だと、リリースに合わせて新機能説明会とかありますけど、島にいるそうはいかない。あと、光回線を引いてほしいという声もあったので、それを受けて、今では奄美市全域に光回線がひかれています。あとは、フリーランスのゆるいコミュニティが欲しいというのもありました。
GMOペパボ株式会社さん、ランサーズ株式会社さんと提携をして、クラウドソーシングやネット販売の仕方を学ぶみたいな取り組みもしています。
あと、PIXTAさんとの提携では、島の観光の写真が圧倒的に少なかったので、売れる写真の撮り方講座を開いています。これらは「フリーランス寺子屋」という名前で、もう5期生が卒業しました。あと、オンライン講座のSchooさんと連携して無料受講のしくみも作っていますよ。
活動内容は、「フリーランスが最も働きやすい島化計画」のサイトで、随時更新していますので、ご覧になってください。
フリーランスガ最も働きやすい島化計画
鯨本さん
離島地域では奄美市が、二拠点やリモートワーカーなどへの支援に対して早かったような気もします。宮古島でも力を入れてきてますし。石垣にもシェアスペースやコワーキングスペースができたりとか。市町村をあげて、二拠点やリモートワークをする方々に来てほしい、という島は増えてきています。
リトウ部鈴木
僕は、ちょうどここに載っている、タービンさんに行ってきましてた。宮古島の市庁舎が来年度ぐらいに移転しちゃって、そこが丸々空くので、コワーキングスペースにするというとこでしたね。環境もすごく良くって、興味ある企業も10社ぐらい来ていました。ですが問題は住宅ですね。住むところが無いから。
鯨本さん
うーん、少ないですね。
リトウ部鈴木
それをどうにかしてくれ、みたいなところは、要望は出ていました。
鯨本さん
住宅問題、奄美はどうですか?
勝さん
奄美も住むところが少ないですね。島の各市町村でも、民間だけだと厳しいので、定住促進住宅を増やそうかな、みたいな話はしています。
実は、奄美にはIT企業がすごい来ているんですよ。今、エンジニアの採用が難しいじゃないですか。そんなときに、「うち、奄美に支店があります!」とか「2週間、リモートワークできる会社ですよ」みたいなアピールができるとエンジニアの採用がしやすくなるらしいです。あと、奄美には情報処理の専門学校があるので、そこにIT企業が先生役を担当して、優秀な生徒の育成に力を入れたり。そういう動きがありますね。
リトウ部鈴木
いいですよね、現地採用して、現地の方にそのまま働いてもらうっていう、いい流れがありますよね。
鯨本さん
たとえば、大分県。今、私は大分県に住んでいるんですけど、大分県の右上にある国東半島の北側に姫島という小さな島があります。人口は2,000人ぐらい。一島一村で、姫島村という村なんですが、「ITアイランド構想」を立てて、使われなくなった校舎の一部をコワーキングスペースにしています。小さな島の施設なのに、すでに2社ぐらい入居しています。
移住や定住の話になってくると、やっぱり気になるのは住まいですよね。「仕事はあるけど家はない」という宮古島は、今、観光バブル状態で、ホテルなどの宿泊施設がものすごく建てられているんですよね。それでたくさんの工事関係者も家を探すので、アパートがない状況になっていると聞きました。
住む場所の問題は、島ごとにいろいろな事情がありますね。
チャットツールを有効活用
鯨本さん
勝さんは、奄美と藤沢、二つの場所それぞれで家を借りて住んでいるんでしたよね?
勝さん
奄美は借りていて、藤沢は持ち家です。ローンと家賃の高コスト生活です。移動があるから空港の近くが一番いいということで、奄美で借りているところは、空港から歩いて15分ぐらいの場所。飛行機がついたら20分後には家にいます。(笑)本当は、関東側の拠点も、羽田空港の近くがいいんですけどね。
リトウ部庄司
空港から藤沢までは、ちょっと距離がありそうですね。
勝さん
羽田空港から藤沢までは、バスで80分ぐらいかな。バスに乗ってもネットが通じるので、その間はまた仕事をする羽目になってしまいます。
離島経済新聞の理事会はすごいですよ。全国5拠点ぐらいで繋いで、どこに誰がいるか分からない理事会みたいな(笑)。リトケイのメンバーの仕事は、朝オフィスにつくと、みんな一回ビデオチャットにつなぐので、リモートオフィスというよりバーチャルオフィス。会話がとくに無くても繋いでおいて、「あ、起きてる」とか「こんな表情だ」ということは知ることができる。音声は切っておくんですけどね。
リトウ部庄司
生活音とか入ってきますからね。
勝さん
で、何かあるときに「お~い」って画面に手を振ると、会議がはじまる。
鯨本さん
リモートワークが弊社で一般化したのは、私のせいなんです。
今、私0歳と4歳の子どもがいるんですけど。上の子が産まれた4年前、「育児をしなけばいけないし、出張も多い。どうしよう」という状況で、「家族の手がある場所じゃないとやっていけないだろう」という話になりました。
そのときは、夫の実家が那覇市にあったので、那覇に住みながら那覇と東京の二拠点で2年半ほどリモートワーク生活をやりました。当時は、ずっとスカイプの繋ぎっぱなしで仕事をしていましたね。
最初はいくつか問題が出てくるんですが、少しずつルールができてくるんですよ。用事は無くてもとりあえず繋いでおこう、とか、支障があるときは消しておこうとか。あとはチャットツールを使って、みんなが何の業務を担当しているのかを共有して、顔が見られないときでも、お互いに何をやっているのか把握できるようにしています。
3〜4年続けるうちにみんな慣れましたね。なので、たとえば風邪を引きかけているときや天候が悪いときには出社せず、自宅作業に切り替えてもらえるので、この働き方はいいなと思っています。
リトウ部鈴木
企業側もリモートワークを行うところが増えてきて、僕が今勤めている会社も、月5日、在宅や遠隔地で働いてよい「どこでもオフィス」というのがあります。その制度を使って地方に出かけてそのまま働いていることもあります。リトウ部庄司さんの勤めている会社も、リアルで顔を合わせる打ち合わせをやらなくなったんですよね。もう全てWebでミーティングをするという。
リトウ部庄司
そうですね。都内を中心に食を中心とした場所を企画運営している会社なのですが、それぞれの店舗に店長がいるので、そもそも全店舗で一同に会するのが、年に一度あるか無いかぐらい。チャットツールを使ったり、オンラインミーティングするというのは、都内勤めでも島にいてもあまり変わらないんじゃないかなと思いますね。
リトウ部部長の二拠点生活
リトウ部鈴木
石垣島に、「Zuppa Ishigaki 離島ターミナル」という、シェアスペースを作っています。離島ターミナルから3、4分のところにあるので、窓から船の行きするのを見ることができます。
リトウ部鈴木
室内は、コワーキングスペースやシェアスペースなどレンタルで貸しているときと、僕が完全に仕事で使っているときとがあります。僕がいないときには、この場所を貸して、家賃収入の一部にする、形をとっています。
リトウ部鈴木
実際のところ、島で物件を借りようと思うと、本当に借りられないんですね。満室率を見ると石垣市は99.7%(2017年現在。八重山毎日新聞より)で、不動産屋に行っても、ほぼ紹介できる物件が無い状態。たまたまご縁があってこの場所を借りられることになり、仲間たちとリノベーションしながらこの場所を作りました。
2018年は、普通の祝日と、どこでもオフィス制度と、有給を使って40日ぐらい行ってました。
リトウ部鈴木
Zuppa Ishigaki 離島ターミナルの近所に素敵なコーヒー屋さんがあって、ここでコーヒーを飲みながら情報交換をしたり、島のことを教えてもらったり、ということをしています。ここから離島ターミナルのほうを眺めながら仕事をしたりもしますね。
島にいる時はあまり夜遅くまでは仕事せずに、夕方はビーチに行ったり、夕日を見ながらカヤックに乗ったりという、緩やかな過ごし方をしています。
Zuppa Ishigaki 離島ターミナルの運営パートナーと、石谷島にUターンしてきた友人夫妻が、島での暮らしをサポートしてくれています。自分が石垣島に通うきっかけになったのも、物件を借りられたり、いろいろな人と知り合えたのも、この二人のおかげだったりします。
リトウ部鈴木
僕が石垣島で活動していることをSNSで紹介していくと、「石垣に移住した人いるよ」「こういう知り合いいるよ」と、いろいろな方が紹介してくれるんですね。それで、僕が直接連絡を取って会いに行って話して「それなら、こういうことを一緒にやりましょう」とプロジェクトが始まったりもします。
最近は、「イシコン」というコミュニティづくりのイベントをやっています。石垣で何かしたい人がプレゼンをして、それに対してお客さんが「賛同します!」「一緒にやりましょう!」と応援してくれて、何かを始めるきっかけを作るというもの。
これ実は、鎌倉で「カマコン」というイベントがあって、それを立ち上げた方がその方が石垣に移住したところで僕も知り合うことができて、「ぜひ、石垣でもすごいことやりましょうよ」となって始まったのが「イシコン」です。
リトウ部鈴木
30人ぐらい定員ですが、毎回定員いっぱいぐらいお客さんが来てくれます。先月行われたときは、石垣島への移住者の方が「島でゲストハウスをつくりたい」というプレゼンをして、そこに「じゃあ、こういうアイデアいいんじゃない」というアドバイスがたくさん出てきました。
Zuppa Ishigakiは、ただのコワーキングスペースじゃなくて、ちゃんと人と人を繋げる拠点にしたいなと思っています。
※クロストーク前半ここまで
クロストーク後半では、離島で二拠点生活をしたいなら心掛けておきたいこと、知っておくと便利なこと、楽しみ方などについて話ました。